頭部外傷
頭部に外部より圧力が加わることによって起こる損傷です。
頭皮は非常に血管に富んでおり、外見上は出血多量で凄惨を極めます。深部に頭蓋骨があるため、強い圧迫で出血は防ぐことができます。また、頸椎捻挫を合併しやすいという点があげられます。
頭蓋骨骨折
線状骨折
頭蓋骨に線状のひびが入った状態です。骨折部位による疼痛、腫脹(こぶ)がみられます。頭蓋内損傷を伴う場合は、それに対する治療が行われます。頭蓋内損傷を伴わなければ、骨折に対する特別の治療は必要なく、通常は自然に治ります。数カ月間は再度の頭部打撲がないように注意しますが、そのほかの日常生活にとくに制限はありません。
陥没骨折
ちょうどピンポン球を押した時にへこんでしまったような、頭蓋骨が内側に陥没した骨折です。頭蓋骨線状骨折と同じく、骨折に伴う頭蓋内の損傷の有無が問題になります。
さらに、頭蓋骨陥没骨折では頭蓋骨の内側にはすぐに髄膜に包まれた脳があるので、陥没の程度に応じて脳が圧迫・損傷を受けます。 骨折部位による疼痛、腫脹(こぶ)のほか、陥没骨折により圧迫・損傷を受けた脳の部位に応じた症状が現れることがあります。圧迫の程度により手術が必要な場合があります。
頭蓋底骨折
頭蓋骨の底辺(頭蓋底)の骨折です。目の周囲に溢血斑(いっけつはん)がみられるときは前頭蓋底(ぜんずがいてい)が、耳の後ろに溢血斑がみられるときは中頭蓋底 が骨折しています。
副鼻腔などに骨折がおよんで硬膜、くも膜に損傷があり、外部と交通してしまうと、頭蓋内に空気が入ってしまうことがあります(気脳症)。耳や鼻から髄液が流れ出てくることもあります(髄液漏)。ときに安静や手術が必要な場合があります。
脳挫傷・外傷性脳内血腫について
頭部を打撲した衝撃によって、打撲部位の直下の脳組織の挫滅を脳挫傷と呼びます。通常、脳挫傷はある程度の出血を伴い、出血が塊になって血腫をつくれば、その部位に応じた病名(外傷性脳内血腫など)もつきます。
症状
脳挫傷からの出血と、挫傷部とその周囲の脳がむくんでくる(脳浮腫)ため、頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、激しい頭痛、嘔吐、意識障害が現れます。脳挫傷の局所の症状として、半身の麻痺(片麻痺)、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作などが現れることもあります。 多量の血腫ができた場合や、脳浮腫による圧迫で脳ヘルニアの状態にまで進行すると、生命の危険がありますので、手術による減圧が必要な場合があります。
脳挫傷からの出血によって脳内血腫をつくる場合は、受傷直後に症状が現れることがほとんどですが、高齢者では遅れて血腫が増大することがあるので注意が必要です。
治療
血腫の大きさと症状の程度によって、緊急に開頭血腫除去術が行われます。血腫を伴わない若しくは、血腫が少量の場合は手術の効果が低いため、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬の点滴注射が行われます。
脳挫傷・外傷性脳内血腫の画像
CT画像
慢性硬膜下血腫
軽微な頭部打撲をきっかけにして、脳の表面(脳表)に微量の出血あるいは脳脊髄液がたまって、その反応でつくられる膜から少しずつ出血が繰り返され、血腫が大きくなると考えられています。きっかけになる頭部外傷がはっきりしないこともまれではありません。
症状
契機となる頭部外傷の直後は無症状か頭痛程度の症状しかないことが多く、このため病院を受診しない人がほとんどです。このあと通常は3週間から1ヶ月かけて血腫がつくられて、頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、頭痛や吐き気・嘔吐が現れます。また、血腫による脳の圧迫症状として半身の麻痺(片麻痺)、言語障害などが初発症状のこともあります。軽度の意識障害として、元気がなかったり、認知症症状がみられることもあります。血腫が増大していけば意識障害が進行して昏睡状態になり、さらに血腫による圧迫が脳ヘルニアの状態にまで進行すると、生命の危険があります。
治療
血腫が少量で症状も軽微な場合は、自然吸収を期待して経過観察とすることもありますが、通常は局所麻酔下の手術が行われます。慢性の血腫はさらさらした液状のため、大きく頭蓋骨を開けなくても小さな孔から取り除けるので、穿頭血腫除去術あるいは穿頭血腫ドレナージ術が行われます。また、高齢になると再発の可能性が高いです。
慢性硬膜下血腫の画像
CT画像1
CT画像2
外傷性くも膜下出血
脳を包んでいる髄膜の3層のうち、硬膜の内側にある薄いくも膜と脳の間に出血が広がったものです。一般に、くも膜下出血という病名は脳動脈瘤の破裂が原因で出血した場合を指すので、けがが原因の場合は外傷性くも膜下出血と呼びます。
症状
激しい頭痛や嘔吐、あるいは意識障害などが受傷時から現れます。脳挫傷の局所の症状として、半身の麻痺(片麻痺)、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作などがみられることもあります。
治療
くも膜下出血を手術で取り除く効果はほとんどないため、手術は通常行われません。出血は自然に吸収されます。合併する脳挫傷によって頭蓋骨の内側の圧が上昇している場合(頭蓋内圧亢進)は、それに対する治療が行われます。
急性硬膜下血腫
急性硬膜下血腫発生の原因のほとんどが頭部外傷によるものです。最も典型的な発生のしかたは、頭部外傷により脳表に脳挫傷が起こりその部分の血管が損傷されて出血し、短時間で硬膜下に溜まるというものです。
症状
血腫による圧迫と脳挫傷のため、頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、激しい頭痛、嘔吐、意識障害が認められます。脳挫傷の局所の症状として、半身の麻痺、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作などが現れることもあります。受傷直後に血腫ができて症状が現れることがほとんどですが、数時間たってから意識がなくなることもあり、注意が必要です。
治療
血腫の大きさと症状の程度によって、緊急に開頭血腫除去術(CT画像1)が行われます。血腫を伴わない若しくは、血腫が少量の場合は手術の効果が低いため、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(CT画像2)の点滴注射が行われます。
急性硬膜下血腫の画像
CT画像1
CT画像2
急性硬膜外血腫
頭蓋骨と、頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜の間に出血がたまって血腫になったものです。多くの場合は、硬膜の表面に浮き出たように走っている硬膜動脈が、頭蓋骨骨折に伴って傷ついて出血し、硬膜と頭蓋骨の間にたまって硬膜外血腫になります。
症状
血腫により脳が圧迫されて症状が現れます。頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、最初は激しい頭痛、嘔吐が現れます。血腫が増大すれば意識障害を来し、さらに脳ヘルニアの状態にまで進行すると、生命の危険があります。血腫の増大による症状の進行は受傷直後のこともありますが、数時間たってから意識がなくなることも多く、注意が必要です。
治療
血腫の大きさと症状の程度によって、緊急に開頭血腫除去術が行われます。
症状が軽い頭痛や嘔吐だけで血腫が少量の場合は、入院経過観察、あるいは頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬の点滴注射が行われます。
急性硬膜外血腫の画像
CT画像1